医療現場の難題をグラフィックレコーディングと対話で解決する!?──元気会横浜病院の取り組み(後編)【創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクト(4)】
こちらは2017年12月に「あしたのコミュニティーラボ」に掲載された記事を再掲載したものです。
創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクトでは、このたび神奈川県横浜市緑区にある「医療法人社団 元気会横浜病院」において、グラフィックレコーディング(以下、グラレコ)を活用したビジョンの可視化プロジェクトを実施しました。グラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)としてグラレコを担当した松本花澄さん、ファシリテーションを担当した医師、コンサルタントの三島千明さん、プロジェクトオーナー側の窓口として参画した元気会横浜病院の北島佳苗理事の3名による座談会を開催。これまでの活動にかけた想いを総括していただきました。
議事録ならこぼれるエピソードも、グラレコなら拾ってくれる
——まずは、本プロジェクトが発足した経緯を整理したいと思います。
松本花澄さん(以下、松本)きっかけは、2017年4月に開催された「介護(認知症予防)×音楽×Haptic」というワークショップです。介護現場の新しい“場づくり”をテーマにしたイベントで、私はグラフィックレコーダーとしてお招きいただきました。その後、ワークショップを担当された “ヘルスケア業界のイノベーター”別府文隆さんから「おもしろい病院があるのだけれど……」と元気会横浜病院さんを紹介してもらい、はじめて三島さんにお会いしました。
——在宅医のほか、医療コンサルタントとしても活動される三島さん(TOP画像・左)は、ファシリテーターとしてこのプロジェクトに参加されています。
三島千明さん(以下、三島)私は以前、元気会横浜病院で非常勤として働かせていただいた経験があります。北島理事長らの課題(前編参照)、病院の魅力は十分に知っていたので、病院を離れてからも「何かお力になれないか」と常々考えていました。一方、公私を含めた友人である別府さんと「言語化しにくい理念やビジョンを伝えるためにどうすればいいか」なんて、すごくラフな感じで話していて、そのとき話題になったのがグラフィックレコーディング。その流れで松本さんと引き合わせていただきました。
「グラフィックカタリスト」プロジェクトで中心的役割を担われた3名。写真左から、松本花澄さん、北島佳苗さん、三島千明さん
——お2人は最初にグラレコの様子をはじめてご覧になり、どんな感想を持ちましたか?
三島 絵の雰囲気が元気会横浜病院の持つ「やさしさ」「あたたかさ」にマッチしているというのが最初の印象です。文字の議事録だとこぼれてしまうようなエピソードも、松本さんがしっかり拾ってくれ、それがまた次の気づきのきっかけになりました。
——プロジェクトオーナーとして参加された北島理事は?
北島佳苗さん(以下、北島)最初はどのようにまとまるかなど、いろいろ心配していましたが、杞憂に終わりました。松本さんが私たちの言葉を絵で受け止め、カタチにしてくれた。メンバー全員が「あれも言いたい」「これも言いたい」といった状態です。
前編にも登場した元気会横浜病院 理事の北島佳苗さん。プロジェクトオーナーである病院側の窓口として参画した
重要なのは、参加者の理解、ファシリテーターの存在
——その後行われた2回目のディスカッション。可視化対象は中村大輔先生でした。
三島 「元気会横浜病院の広報や採用活動の効果を上げていきたい」という大前提のもと、理念やビジョンを伝えるツールとしてグラレコに挑んだのが1回目のディスカッション、さらにドクターの魅力を“見える化”するフェーズを経て、病院の理念・ビジョンをもっと掘り下げようと考えたのが2回目のディスカッションでした。
北島 実は1回目のディスカッションで、理事長も中村先生も私もグラレコにはまってしまって。理事長は元気会横浜病院のスタッフ1人ひとりをグラレコにしたい、と言ったくらいです(笑)。
松本 特定の人物を可視化の対象にするのは、はじめての経験でした。これがたとえば病院じゃなく会社だったら「なぜ部長のことを話す場になんかに!」なんてことにもなりかねず(笑)、「自分ゴトにしにくいテーマなのでは?」と参加者のモチベーションが少し気になっていたんです。でも、病院の皆さんはモチベーションが高いと三島さんたちに聞いていたので安心して臨めました。
——ファシリテーターである三島さんの存在が大きかった?
松本 そうですね。現場への理解が深く、全体的な進め方やゴールイメージを持たれている三島さんがファシリテーターをしてくれたことで、私はグラレコに専念することができました。ファシリテーターとグラレコが連携することで、より対話を拡げたり、議論を深めたりすることができると私は思っているので、こうした場はとても大切にしたいです。
グラフィックカタリスト・ビオトープの松本さんは座談会中、社会のなかでのグラレコの役割について、前向きに意見を述べた
北島 元気会横浜病院で働かれていた三島先生が、病院のカルチャーをご存じだったことも大きかったと思います。すごく上手に引き出してくださいましたから。
三島 たとえば「病院にはどんな方がいて、その人たちがどんなことにモチベーションを感じ、どんなことに課題を感じているのか」など、松本さんから事前にいくつか質問を受けました。こうしたコミュニケーションができることの意味は大きく、私は松本さんと元気会横浜病院、その間くらいの立場でトランスレーション(翻訳)できた。とても価値ある経験でした。
グラレコの効果をもっと社会に浸透させるためには……
——プロジェクトでは最終的に、元気会横浜病院の理念を描いた1枚絵が完成しました。ご紹介いただけますか?
松本 1枚絵の中央には元気会横浜病院のビジョンを配置しています。「心を元気に」「みんながしあわせ」がどういうことなのか掘り下げて考えたとき、そこには3者が存在すると思いました。
松本 まず“患者さん”にとっては「生きる意義、生きた証を見つける」価値を見いだせること。“ご家族”はそのことで「親孝行の実感」「病院への感謝」を得ます。さらに、そうしたご家族の思いから、“病院スタッフ”の方々は「自分の仕事や人生への肯定感」を感じ、それがさらに自立へとつながっていく——。「患者さんへのよりよいケア」にもつながるサイクルがまわっていくごとに、3者が「みんながしあわせ」に。そしてみんなの「心 を元気に」するのだと思いました。
北島 こうした仕上がりになるとは想定していなかったのですが、「循環」という形はかなり前から私たちも考えていました。まっさらな状態からこれが描かれたことは素直な驚きです。
——グラレコで「対話」した体験も貴重だったと思います。振り返ってどのような感想を持ちましたか?
北島 院内ではグラレコを額縁に入れており、参加しなかったスタッフや病院見学にいらした外部の方から「これ、なんですか?」と聞かれることは多いです。宝の持ち腐れにならないよう、病院内外に向け発信してきたいです。
三島 ストーリーの持つ力を感じました。病院のなかにはいろいろなところにストーリーがあるし、来院される患者さんやご家族との関係にも同じことが言えます。患者さんの人 生を病院の側で記録する、みたいなグラレコの使い方もできるかもしれません。
——グラレコ活用の効果を社会に拡げていくために、松本さんは何が必要だと思いますか?
松本 うーん……難しい質問ですね。グラレコ活用の効果は「議論の内容や、他者への理解のモチベーションを高める」などがあると思います。こういった効果を社会に広げていくために、みんなが絵を描いて話をする、それが当たり前になってくれたらいいなと思います。絵は基本的に誰もが描けるし……会社の打ち合わせで絵を描いていたら怒られるかもしれませんが(笑)。
怒られるとか恥ずかしいとかそういうことを気にせずに、話したいことを絵で描き、聴いたことを絵で描き、それを見せ合いながら対話をする。それができたらもっといい社会になっていくんじゃないかなって思います。
——本日はありがとうございました。
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